むぞらしかは古語が起源?意味の変遷と言語学的なルーツの真相を徹底解説
なぜ九州の西端や離島部にこのような響きの言葉が残っているのでしょうか。言語学的なアプローチからそのルーツを辿ると、平安時代の古語「めづ(愛づ)」およびそこから派生した形容詞「むづらし」に行き着きます。
古典文学における「めづ」は、「素晴らしいと褒め称える」「心惹かれて愛する」という意味を持つ動詞でした。平安中期から中世にかけて、この語根から「愛づらし(めづらし)」や、心の揺らぎを表す「むづらし」へと派生したと考えられています。当時の都(京都)で使われていた優雅な宮廷言葉や知識層の言葉が、長い歳月をかけて地方へと波及していったのです。
民俗学者・柳田國男が提唱した「方言周圏論」によれば、文化の中心地である都で生まれた新しい言葉は、池に落とした小石の波紋のように同心円状に地方へ広がっていきます。そして時代が下ると、中央では新しい流行語に上書きされて消滅した言葉が、交通の便が限られていた遠隔地や島嶼部にそのまま化石のように保存されます。「むぞらしか」が天草や島原、五島列島、薩摩半島といった沿岸・離島部にしっかりと息づいている現象は、まさにこの方言周圏論の正しさを証明する好例といえます。